社会の高齢化に伴い、地主の高齢化も進行しています。健康寿命と実寿命との間には10歳程度の差があり、その期間に認知症に罹患すると、底地の処分にも支障を来します。そこで、実務上では家族信託又は任意後見制度が活用されるケースが増えています。
それぞれの制度の詳細を見ていきましょう。
家族信託のメリット

1. 底地経営の継続
図のように、地主のA氏が底地と預金の一部を長男B氏に信託をします。B氏は底地の管理を行い、従前どおり、地代はA氏の収入となります。こうすることで、A氏が認知症になっても、「借地契約の更新」「地代改定」「名義変更承諾」「建替承諾」「底地の売却」「借地権買取り」などの業務をB氏が受託者として継続できます。これは底地所有者にとって非常に大きなメリットです。
2. 財産凍結の防止
認知症になると銀行口座や不動産取引が実質的に止まることがあります。家族信託では「地代の受領」「固定資産税の支払い」「修繕費の支払い」なども継続できます。
3. 処分が可能
底地を借地権者に売却、底地と借地権を第三者に売却、底地を第三者に売却、底地と借地権を交換など、底地の処分が可能となります。
4. 二次相続まで設計可能
例えばA氏が死亡して底地を妻が相続した場合、妻を受益者として家族信託を継続し、その後、妻が死亡して底地をB氏が相続するというような承継まで設計できます。これは任意後見ではできません。
家族信託のデメリット
1. 身上監護ができず
例えば介護施設との契約、入院手続、福祉サービスなどは家族信託では代理できません。
2. 受託者の負担大
B氏は帳簿作成、信託口口座管理、税務管理などの業務を継続する必要があり、底地の数が多いとかなりの負担が生じることになります。
任意後見制度のメリット
1. 任意後見制度のメリット
例えば、後見人が老人ホーム入所、病院との契約、介護サービス契約などを本人に代理して行うことができます。これは家族信託にはない最大の強みです。
2. 本人保護が厚い
家庭裁判所が任意後見監督人を選任するため、後見人の財産の使い込みを防止できます。
3. 財産全体の管理が可能
家族信託は信託財産のみが対象になりますが、任意後見は被後見人(A氏)の預金、年金、不動産、日常生活費などが広く管理対象になります。
任意後見制度のデメリット
1. 効力の発生が遅い
認知症になっただけでは後見制度は開始されず、家庭裁判所への申立てと任意後見監督人の選任が必要です。
2. 裁判所に監督権
後見人が自由に財産活用できる制度ではなく、本人保護が優先されます。従って、積極的な資産活用や相続対策には向いていません。何かをする場合、裁判所が専任した任意後見監督人の承諾を得る必要があります。
3. 継続費用が発生
任意後見監督人への報酬(月額数万円程度が一般的)が継続的に発生します。
底地オーナーの場合には家族信託の利用がお勧め
家族信託と任意後見制度のそれぞれに関するメリット・デメリットを表にしましたので、ご確認ください。
底地を多数保有している場合は、底地の管理・活用を継続することが最優先であるため、家族信託の適性が高いと考えられます。借地契約の更新や承諾業務、底地売却などを柔軟に継続できる点は、底地オーナーにとって大きな利点です。特に借地権・底地は継続的な意思決定を要する場面が多く、家族信託の柔軟性が生かされやすい財産といえます。
一方で、将来の施設入所や医療・介護に関する契約をB氏に任せたい場合には、任意後見契約を補完的に組み合わせる設計も考えられます。いずれの場合も底地オーナーが単独で意思表示ができるうちに契約を締結しなければなりません。認知症と診断された後では、制度を利用できませんので、ご注意ください。
家族信託と任意後見の比較
| 項目 | 家族信託 | 任意後見契約 |
|---|---|---|
| 目的 | 財産の管理・運用・処分 | 財産管理+身上監護 |
| 開始時期 | 契約締結後すぐ | 認知症になり家庭裁判所が監督人を選任した後 |
| 裁判所の関与 | 原則なし | あり |
| 不動産売却 | 比較的自由 | 本人保護が最優先 |
| 身上監護 | × | ○ |
| 相続対策 | ○ | × |
