事例6:公売により一団底地を落札し、借地人へ分譲

最高価申込者○○殿、と係員が発表すると、「誰だ、誰だ。私の土地に入札したのは」、と叫ぶ一人の男がいました。一瞬場内が騒がしくなりましたが、係員の「静かにして下さい。静かにできない方は退室して下さい!」との声に続き、「次順位申込者○○殿」とアナウンスされ、すべての財産につき開札が終了しました。一部に最高順位申込を集合させ説明がされているときも、その男は落札者が誰であるかを捜しているようでした。公売の会場を退室するときに、出口で一人一人にその不動産を取得したものがいないかを確認しています。何れはお会いすることになるため、私が買主の代理人であることを相手に伝えました。

すると私をこの男を含め、3組の夫婦と思われる者が私を取り囲み、何やら問いつめ始めます。「何で他人の土地を買うのですか?」「この土地はあなたの土地ですか?使われているのはあなた達かもしれませんが、土地(底地)は誰が取得しても法律上も何ら問題はないのですよ。私(代理人)は投資のために購入しただけで、あなた方に対して何ら悪意を持って入札したのではありません」というようなやりとりがあり、このあとも1時間程の会話が続き、終わりそうもないので、後日訪問し話し合うことといたしました。

実は、この土地の従前の所有者を私は知っていました。と言うのも、この土地を所有する地主から、10年程前に相続税の納税について相談を受けていたからです。不動産バブルがピークのころ相続が発生し、多額の納税を強いられることとなり、遺産の分割や、納税の方法で協議をしましたが方針がかみ合わず、私が所属していた会社は降りことになり、他のコンサルティング会社の方針を受けて分割・納税方法の選択をすることとなったようです。

まさか延納を選択するとは思いませんでした。
相続財産の殆どが自宅を除けば第三者による借地権の付着した土地(底地)ばかりでした。一般的に相続税が課税される評価(路線価)で底地の購入を希望する者は、借地人以外はいません。さらに、相続税評価に対しての地代利回りは当時0.3%程度でしたので(現在は評価が下がり、1~2%程度)、公租公課を差し引き後0.2%程度となり、延納は最初から無理な話でした。底地を借地人が購入してもらう、もしくは売却が困難であれば物納を選択するしか納税方法はないと私は考えていました。当時は時価に対して相続税評価の水準は60~70%(現在は80%水準程度)の状況であり、課税評価額と実勢価額との乖離もあったことから、多少のダンピングをしてでも売却しようという方針があれば、納税分とし50%程度を売却することは可能な状況にあったと思われます。

仮に、申告期限までに売却の目途が立たない場合においては、相続税申告時にいったん物納申請をして、納税の安全を確保する方法もあったはずです(注:現在は税制改正によってこの方法の採用はできません)。たぶん、地主(土地所有者)にも相当な欲があり、高い価格付けをしても一定の借地人は、底地を購入するだろうと鷹を括っていたのだと思われました。

結局のところ相続税は分割払い(延納)を選択して、引き続き売却交渉をすることとなったようです。延納には利息(国の場合は利子税)が付されますので、この負担が大きく、当時の利子税は年4.8%でしたので、10億の相続税本税以外に4,800万円の利息がかかってくることになります。また、当時の地価状況は毎年10%以上の割合で下落に歯止めが利かない状況に堕ちていました。今思えば相当値下げして、折り合いがつく価格で売却をしていれば相続破産していなかったのでしょう。その後このような納税者が多かったことから、平成4年には特例物納制度が一時的に創設(時限立法)され、従前延納したものも、この年に限り物納に変更できましたが、この地主は強気でこの制度を利用することはありませんでした。

何れにしろこの地主の場合、一部の借地人の協力があったものの、最終的には殆どの借地人が底地を購入せず、毎年の利息を支払うための切り売りだけで、最終的には財産を差し押さえられ、競売(公売)されることとなりました。当時はバブル経済が崩壊しても土地神話は残っていましたから、そのうち地価は回復し、一括で納税可能と思っていた地主が多かったのではないでしょうか。

話しは戻り、後日、指定された日時にこの3世帯の借地人6名と面談しました。

借地人「誰も入札しないと思っていたのですが・・・」

私「そうですか、競売というのは一番高く入札したものが落札できるのですから、残念ですが、いったん私共で取得いたします。・・・その後については・・・!」

借地人「人が使っている土地を第三者が購入するとは、あんたらは底地屋ですか?借地権は譲らない。地代の値上げも受け付けない。土地(底地)もあなた方が言う値段で買う気は毛頭も無い。あんたらに必要のないものをなぜ買うのか?」

私「あなた方は誤解をされているようですね。地主の相続に対して、納税のときに一切の協力をしないばかりか、集団交渉によって地主を威圧し一歩的な値決めによって、折り合うことができず、競売によって買うことを選択されたわけですから、当然第三者が介在することを前提しなければならないことは承知でしょう。また、最低価格での購入とは少し甘いのと違いますか?
当社のクライアントである地主は純粋に投資として底地を購入しています。
それでは、当該地を購入する3つの理由をご説明いたしましょう。」

(1)安定利回物件として

現在、ワンルームマンションやアパート等の投資では、管理コストや入居者の確保、建物償却を考えなければなりませんが、土地の場合は償却が無いことを考慮すれば、建物系の利回りがネットで7%前後ということで比較すれば、当該地の入札価格に対するそれは5%相当になり、建物の増改築、期間満了の更新料という一時金が別途見込まれることから、底地は通常の投資としても有利な財産なのです。

(2)将来の納税用として

実は当社はこの底地を所有していた地主のような資産家の相続対策を手がけています。地主にとって底地は、利用区分ごとに分筆して、適正管理をしていけば将来の物納用地として、課税評価で納税が保障できる財産なのです。物納後の借地権は期間満了の場合の更新料の支払いがないため、最近では借地人のほうから底地を物納してほしい旨のお願いをされるケースもあります。

(3)社会的な役割

決して借地人殿を排除して、整理していくことはしません。底地を購入しようにも、利用区分に分筆されておらず、共同入札などの面倒な手続きのため、入札に参加されないという方々が多くみうけられます。また最近の傾向ですが、借地人が高齢化してきているということもあり、様々な理由により借地権を換金化したいという要望も多く、当社はそういった要望に応えるため、社会的な役割として仕事をしています。決して一攫千金を狙った底地屋ではありません。

自分が使用する土地(底地)が欲しいのであれば、利用区分ごと3筆に分割しますので、その後、必要な方は自分の敷地の分を購入されたらどうですか?」

このような会話が3時間ほど続きましたが、結局のところ、利用区分ごとに3区画に分筆し、それぞれ路線価による底地として販売し、全員がそれぞれ完全所有権にする途を選択しました。地主は約半年後に無事に資金を回収し、相応の利益を得ることとなりました。

延納制度については以下の国税庁のホームページで御確認ください。
http://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4211.htm

また物納制度については以下の国税庁のホームページで御確認ください。
http://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4214.htm

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